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[ R&D ] May 11, 2026

オープンダイアローグの要素は消費者インタビューに取り入れられるか(2)

Reflection Article 2 Revised
筆者:インサイト・ファクトリー 羽川
この記事の要点

第1回で整理したリフレクションインタビューを、Z世代のSNS利用をテーマに試行しました。

前半では一般論や行動説明に寄りがちだった語りが、リフレクション後には、SNSとの距離感、比喩、条件づけ、循環構造を伴う語りへ移る場面が見られました。

リフレクションを契機に、対象者が自分の語りを言い換え、補足し、組み替える場面が見られました。

1)「テーマ:SNS」でテストケースを実施

第1回で整理したリフレクションインタビューを、Z世代のSNS利用インタビューに適用しました。

SNSをテーマにしたのは、利用が日常に溶け込みすぎていて、「なんとなく使っている」「暇な時に見る」「流行を知るために見る」といった一般論に収束しやすいためです。対象者の語りからも、SNSは生活リズム、友人関係、暇、疲労、流行、自己像の中に入り込んでいるものとして見えてきました。

対象を20歳前後のZ世代にしたのは、SNSが生活に深く入り込んでいる世代であることに加え、30〜40代の観察者によるリフレクションで、年齢差による迎合が起きるかを確認したかったためです。

本テストでは、通常DIの後にリフレクションを挟み、対象者が自分のSNS利用をどう聞き直し、語り直すかを確認しました。

調査設計サマリー

テーマ
SNS利用実態

日常化していて無意識的な利用を説明しにくいテーマで実施。

対象者
20歳前後のZ世代5名

SNSが生活に深く入り込んでいる層を対象に実施。

観察者
30〜40代 2〜3名

年齢差がある中で、迎合ではなく語り直しが起きるかを確認。

進行は3ブロック、約90分

導入は前半対話の冒頭に含め、1セッション約90分で進行しました。

ブロック時間内容狙い
導入+前半対話約60分目的説明、観察者の役割説明を行ったうえで、通常のデプスインタビューを実施。SNS利用の実態、経験、感情、矛盾を語ってもらい、後半で聞き直す素材を確保する。
リフレクション約15分観察者同士が前半の受け取りを話す。対象者はカメラ・マイクオフで聞く。対象者を一時的に「話す側」から「聞く側」へ移す。
後半対話約15分対象者がリフレクションを聞いた後に再び語る。前半の語りがどう言い換えられ、補足され、組み直されるかを見る。

リフレクションパートの位置づけとねらい

リフレクションパートのねらいは、前半で語られたSNS利用の実態、経験、感情、矛盾を、対象者自身が少し外側から聞き直せる状態に置くことです。観察者が対象者の語りをどう観察したのかを、対象者がさらに観察する、いわば「観察を観察する」二重の観察状態をつくり、対象者の内言化、つまり心の中での考え直しや整理が促されることを狙っています

リフレクションインタビューの構造を示す図
リフレクションパートでは、対象者が自分の語りを一度外側から聞き直す状態をつくる。

観察者が返すもの

観察者は、対象者の発話を受けて、内容を自身の言葉で語り直します。返すものは主に4つです。

  • 対象者が言っていたことの整理
  • 観察者自身が感じたこと・思ったこと
  • 分からなかった点、引っかかった点
  • 「こういうことなのか」という仮説

いずれも、対象者を分析・解釈・評価する発話にはせず、「私にはそう聞こえた」「私はこう感じた」というIメッセージの形で場に置くことを徹底します。

運用の核 ―― 適度な差異

運用上もっとも重要なのは、観察者が返す差異の大きさです。差異が小さすぎると確認で終わり、大きすぎると対象者が反対のことを言いづらくなります。対象者の内側で考え直しが起きる程度の「適度な差異」を置くことが、リフレクションが機能するかどうかの分かれ目です。

対象者側の動き ―― カメラ・マイクオフで聞く

リフレクション中は、聞くことに100%注力してもらうため、対象者にカメラ・マイクをオフにしてもらいました。場から外すのではなく、一時的に「話す側」から「聞く側」へ移ってもらう配置です。対象者は、自分の語りが他者にどう聞こえたのかを聞き、後半でもう一度語ります。

2)リフレクション後に見られた語りの変化

リフレクション後はカメラ・マイクをオンに戻し、後半対話に入りました。まずリフレクションを聞いて思ったこと、感じたことを自由に語ってもらい、その後、インタビュアーが触れられた点を順に取り上げ、印象や違和感を聞きながら語りを促しました。

今回見られた変化は、発言量の増加ではなく、語りのモードそのものの変化でした。前半は「何をしているか」という行動説明や一般論が中心でしたが、後半では「SNSの位置づけは何なのか」「SNSとどう関わり合いたいのか」に焦点が移りました。どんな状態で使うのか、使った後に何が起きるのか、今後どう付き合いたいのかが語られるようになりました。

ここで起きたのは、意見の変化というより、語りのコンテクストの前景化です。前半では、SNSを「無駄」「依存」「支配されている」といった短い言葉で語り、背景にある生活、関係、状態は後景に退いていました。リフレクションを挟むことで、対象者は自分でも目を向けていなかった行動や、突き詰めて考えていなかった事象に向き合い、背景化していた条件、状況、意識などが前景に上がってきます。

これは、自分の語りをメタ認知し、観察者の差異に触れることで、固定された文脈がほぐれた状態と言えます。

前半で出やすかった語り
  • 暇な時に見る
  • 流行を知るために見る
  • 友達との話題についていくために見る
  • 見すぎるとよくないとは思う
  • 無駄だと思うけれど見てしまう
リフレクション後に出てきた語り
  • 条件づけ:どんな状態の時に見てしまうのか
  • 意味づけ:SNSが自分にとってどんな存在なのか
  • 循環構造:休むための利用が、逆に疲労を生む循環
  • 距離感:使いたいが、飲み込まれたくない感覚
  • 方針:今後どう付き合いたいか

発話モードの変化を整理する

語りのタイプ前半後半
行動説明暇な時に見る、寝る前に見る、友達の投稿を見る。どの状態で、なぜその行動が起きるのかが語られる。
機能説明流行を知る、連絡を取る、情報収集する。生活リズムや人間関係の中で、SNSがどう働くかが語られる。
一般的評価見すぎはよくない、時間を無駄にしている気がする。無駄という自己評価から、休息・逃避・疲労の循環として語られる。
葛藤やめたいけど見てしまう、疲れるけど開いてしまう。使いたいが飲み込まれたくない、便利だが距離も取りたい感覚が出る。

3)5名に見られた語り直しのパターン

5名全員に語りの変化が見られましたが、深さには差がありました。以下、初期の語り、リフレクション、語り直しに絞って整理します。語りの深さはD1〜D3で整理しました。

段階定義
D1行動・事実・一般論の説明。SNSをよく見る、暇な時に見る、流行を知るために見る。
D2感情・葛藤・気付きの発話。無駄だと思う、疲れる、でも見てしまう、自分でも矛盾していると思う。
D3メタ認知により、行動への気づきと意味づけが生じ、SNSとの関係の見方が組み替わる発話。SNSは休憩のようであり、同時に気力を奪う循環にもなっている。だから距離を取りたい。

D3は印象評価ではなく、メタ認知によって自分とSNSとの関係の見方が組み替わる状態を指します。今回の5名では、4名にD3相当の語りが見られ、1名はD2に留まりました。以下、前半の語り、リフレクション、再対話での語り直しを並べます。

A
ショート動画の惰性視聴から、SNSが気力を削るループの自覚へ
D3 循環構造
初期の語りショート動画は「気力を使わずに見れる」ものとして語られていた。一方で、「見たくないけど結構見てる」「気づいたら時間が経っていて、何も得られていない」といった後悔も出ていた。
リフレクション「気力を使わずに見られるけれど、結果的に疲れているのではないか」「なくてもいいかもしれないが、クセになっているのではないか」といった受け取りが置かれた。
語り直しショート動画を見すぎると気力が削られて、また気軽に見られるショート動画を見続けてしまう。そうやってさらに気力が削られる。その気力と時間を他の作品や娯楽に使えたら、その方が有意義だと思う。
B
TikTokの無意識視聴とLINEの返信義務感から、SNSが関係維持に必要だという認識へ
D3 関係維持
初期の語りTikTokは「寝る前とかずっと見てます。別に意味ないんですけど」と語られ、「何も考えなくていいのがいい」とも話していた。LINEには「返さないといけない感じ」があり、やり取りが続いている方が、久しぶりに会っても気まずくならないという感覚もあった。
リフレクション「何も考えなくていい時間が必要なのかもしれない」「LINEのラリーを続けなきゃいけないプレッシャーがあるのでは」「関係維持のためにやらなきゃ、という軽い義務感がにじんでいた」といった受け取りが置かれた。
語り直しTikTokは漫画を見るのと同じ感覚。何も考えないで、ただひたすら見てる。それがリラックスの時間になっている。友達関係を維持せなきゃってのはちょっとあって、関係が切れちゃうと、自分は誰と仲良くしてればいいのか不安になる。だから、LINEを見るのをサボっちゃうのが怖い
C
SNSの趣味・情報収集利用から、就職活動への活用意識へ
D2 気づき
初期の語りSNSは趣味や情報収集の手段であり、かなりの時間を使うものとして語られていた。使いすぎへの問題意識はあるが、趣味として必要な時間でもある、という位置づけだった。
リフレクション「趣味として使うなら減らす必要はないのか」「情報収集として今後どう使うのか」といった問いが置かれた。
語り直しXでもインスタでもYouTubeでも、なんでも情報は収集できると思う。今一番自分がやらなきゃいけない就職について、もう少し情報をうまく活用できたらいいかなと思っています。
D
祖母に言われた「だらしない」から、SNS余剰利用の自己コントロール問題へ
D3 自己調整
初期の語り祖母から「だらしない」と言われることがあり、「ずっとスマホ見てるから」と説明していた。本人にも「気づいたらずっとベッドでSNSばっか見てる」「自分でもだらだらしてるなと思う」という感覚があった。
リフレクション「だらしないとは、例えばどんな状態なのか」「祖母が指摘していたのは、暇があるとスマホを触ることなのかもしれない」「本当はこうした方がいいという理想の使い方があるのかもしれない」といった問い・受け取りが置かれた。
語り直しSNSを見ている自分を客観的に見ることがある。必要を超えて無駄な情報を見ている時に、あ、今だらしないなって気づく。そういった点を指摘されていたのかも。自分でコントロールできていない部分を直したいと思うようになった。
E
「依存」「偽りの自分」という自己評価から、SNSが生活の一部という再認識へ
D3 生活化
初期の語りSNSには「依存してるなと思う」と語りつつ、「何かしてても開いちゃう」「終わりがない」とも話していた。加工については「偽りの自分って感じ。でも当たり前なので気にしてない」と語っていた。
リフレクション「依存」は負担やノルマなのか、生活に自然に入り込んでいるものなのか。加工は「偽り」なのか、自分の一部なのか。作られた自己は苦ではないのか、という問いが置かれた。
語り直し考えてみたら、依存じゃなかったかも。SNSはご飯を食べるのと同じ感覚で使っていて、生活の一部になっている。加工も、インスタは自分の一番表面を見せているだけ。中身と違うのは当たり前で、見せたいものだけ見せるのが当たり前。皆やっているので苦痛じゃない。

リフレクション体験への反応

ケースごとの語り直しとは別に、リフレクション体験そのものにも反応が見られました。これらは、リフレクションが「観察を観察する」時間として機能していたことを示す反応です。

  • 観察者同士の会話を聞く時間が、自分の話を振り返る時間として機能していた。
  • 観察者の受け取りに対して、「それはこうかも」「少し違うかも」と考えるきっかけになった。
  • カメラ・マイクをオフにすることで、画面を気にせず聞け、メモを取りやすいという反応があった。

ここで見られたのは、観察者の言葉への同意ではなく、聞きながら自分の語りをもう一度たどる動きです。

一方で、Cのように、気づきは生じてもSNSとの関係全体の再構成までは進まないケースもありました。これは失敗ではなく、リフレクションインタビューの限界を示す結果です。深まり方は、テーマへの関心や葛藤、自分の語りを聞き直しやすいかによって変わります。

4)迎合への配慮と、語り直しを見る視点

リフレクションインタビューで警戒すべきなのは、対象者が観察者の言葉を「正解」として受け取り、そのまま合わせてしまうことです。今回は観察者が30〜40代、対象者が20歳前後だったため、年齢差による迎合圧は無視できない前提として扱いました。

そのため序盤では、観察者も含めて自己紹介を行い、対象者を一方的に評価する場ではないことを確認しました。あわせて、対象者・観察者それぞれの価値観や感じ方の差異を最大限尊重する、というルールを置いて進めました。

後半対話では、観察者の言葉に同意したかではなく、リフレクションを受けて、対象者自身の気づき、感情の発露、認識の深まり、行動への意味づけが生じたかを見ました。ここを基準にすることで、単なる迎合ではなく、語り直しとして読めるかを確認しました。

5)今回のまとめ

リフレクション後、対象者は観察者同士の対話を聞き、自分のSNS利用における実態、感情、違和感を俯瞰しやすくなっていました。

後半では、ショート動画による疲労のループ、友人との会話に入るためのSNS、余剰利用をコントロールしきれていない状態など、前半では明確でなかった認識が出てきました。

ただし、今回は対照条件を置いていないため、後半の変化をリフレクション固有の効果とは断定しません。通常DIでも時間経過や関係形成によって語りは深まります。本稿では、通常DIにリフレクションを加えた時に、語り直しの契機として働く可能性がある、という範囲で捉えています。

次回予告

第3回では、今回見られた語りの変化を、発話カテゴリの簡易コーディングで確認します。リフレクション前後で「行動」「感情」「意味づけ・方針」「気付き」の出現率がどう変わったかを整理し、この手法がどのような発話モードを促しやすいのかを検討します。


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