要約

科学技術やAIが発達した現代において、占いやスピリチュアル市場が拡大するパラドックスが生じています。背景には、自己責任に基づいた過酷な実力主義への諦念と、自尊心防衛のための生存戦略が垣間見えます。
現代人は占いやスピリチュアルに「未来の予言」だけではなく、多面化した自分を統合する「自己定義」のラベルを探し求めているのではないでしょうか。
そのため、これからのマーケティングには、選択肢のキュレーションや、顧客を代弁するようなストーリーの構築、同類タイプのコミュニティ形成などを通じて、「顧客自身が何者であるか」を定義・サポートするアプローチが求められるのではないかと考えます。

科学が発達した今、なぜスピリチュアルなのか?

私たちは今、歴史上最も科学技術が発達し、あらゆる情報が可視化された世界に生きています。データサイエンスが未来を予測し、AIが最適な選択肢を瞬時に提示する。そんな現代において、ひとつの奇妙なパラドックスが生じています。

占いやスピリチュアル市場が、国内外で拡大を見せているのです。
占いは、かつてどこか「オカルト的で怪しげなもの」と捉えられる一面がありましたが、現在では、Webサービスやチャットアプリ、SNSのタロット動画などを通じて、きわめてカジュアルに、そして日常的に消費されるようになりました。
当然のことながら、このようなデジタル化による恩恵が大きいのですが、矢野経済研究所の調べでは、対面による占い市場も伸長しているのです。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3662?utm_source=chatgpt.com

さらにこうした現象を裏付ける、興味深いデータがあります。
博報堂生活総研が長年実施している定点調査において、「運・ツキ派 vs 努力派」という質問に対し、「世の中、努力よりも運・ツキである」と回答した人の割合が、2008年から徐々に上昇。2024年には44.9%へと、この16年で10ポイント超も増加しています。
https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/86.html

なぜ人々は「目に見えないもの」や「運・ツキ」を信じるようになっているのでしょうか。
その背景には、現代特有の「努力が報われにくい社会」への諦念と生存戦略があると感じます。終身雇用の崩壊、格差拡大、個人の努力だけではコントロールできない世界情勢の不安定さ。
かつて信じられていた「努力すれば必ず報われる」という実力主義の限界を、現代の人々は徐々に感じ取っているのではないでしょうか。

すべてが自己責任とされる過酷な現代において、「運が悪かった」「今はそういう周期」と解釈することが、自らの自尊心を防衛し、精神的なダメージを和らげるための極めて実用的なライフハックになっているのではないかと推察します。

占いは「未来予言」だけではない ―MBTI化するスピリチュアル

では、現代人は占いに「未来の予言」を求めているのでしょうか。

私が実施した占い利用者に対するアンケートでは、利用理由に「将来がどうなるか知りたい(35.1%)」も上位に挙がりますが、「自分の決断や考えの後押しがほしい(38.1%)」や「不安を和らげたり、前向きな気持ちになりたい(32.0%)」といった不安解消ニーズや、「自分の性格や適性を知りたい(30.9%)」といった自己分析ニーズも、ほぼ同等のスコアで上位に入ります。

かつての占いが「いつ白馬の王子様があらわれるのか」「どの企業に就職すべきか」という「未来の予言」中心だったとすれば、今はこれに加え「不安解消」や「自己定義」という側面が強まっていることが読み取れます。

VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)と呼ばれる不透明な時代において、人々が求めているのは「未来の自分がどうなるか」だけではなく、この変化の激しい世界で「自分自身がどんな人間」で「今後どう生きるべきか」という現実的な指針なのではないでしょうか。

さらにここで注目すべきは、近年の「MBTI(16類型性格診断)」の流行です。
最近の若者の間では、初対面時の自己紹介やSNSのプロフィール欄にMBTIの4文字を記載することが当たり前になりました。占いもMBTIも「私はどんな人間なのか」を短時間で言語化してくれる点で共通しています。
https://www.16personalities.com/ja

星占いもタロットも四柱推命も、未来を予言するだけのものではなく、「自分のキャラクター」を理解し「強み・弱みを把握」した上で、「人生における指針」がほしいという、強烈な自己解釈のニーズを満たすためのツールとして再定義されているのです。

占いや性格診断は内省や自己分析の手間を省き、「あなたはこういう性質を持った人です」と手取り早く言語化してくれる強力なショートカット機能でもあります。
人々は未来を知りたいだけでなく、わかりやすい「自分のラベル」を求めはじめているのではないかと考察します。

多面化する現代人は、どこかで「本当の自分」を探している

なぜ、これほどまでに「自己を定義する」必要性が高まっているのでしょうか。
それは、私たちが歴史上初めて、「何者であるかを自分で決めなければならない過剰な自由」を手に入れたからです。

かつての社会、例えば昭和の時代まで遡ると、個人を取り巻く環境(家族、地域、所属する会社)が、ある程度自動的に「自分」を定義してくれました。「〇〇家の長男」「〇〇家の嫁」「〇〇村の住民」と、良くも悪くも、あらかじめ用意されたレールや役割に配属されることで、人々は「これが自分」というアイデンティティを明確に持っていました。

一方、現代では、それらの旧来的なコミュニティの影が薄まったと同時に、個々人が複数の顔を使い分けていくことが求められています。本業を持ちながら副業をし、複数の趣味のコミュニティに所属し、SNSごとにアカウント(人格)を使い分ける。場面ごとに見せる顔が異なる「個人の多面化」が進んだ結果、現代人は「本当の自分はどこにいるのだろう?」と、断片化された自分が見えなくなっているのです。

自由すぎる世界は、裏を返せば「何者でもない自分」という孤独と隣り合わせです。
だからこそ、占いやMBTIという第三者の手を借りて、「本当のあなたはこんな人」と、自分を再定義してもらう必要があるのです。

これからのマーケティングは「自己定義」をサポートすることが求められる

このような「自己定義」ニーズを、マーケティングにどう活かせるでしょうか。
これまでの伝統的なマーケティングは、商品の機能やベネフィットを理解してもらい、競合との違いを訴求することが中心でした。いわば「商品が何者であるか」を説明する施策です。

しかし、モノが溢れ、情報過多となった現代においては、機能の差だけで消費者を惹きつけることは困難です。これからの時代に求められるのは、商品を理解してもらうことだけではなく、その商品を通じて、顧客自身が「私はこういう人間だ」という納得できる情報を提供してあげること。具体的には以下のようなアプローチが重要になってくるのではないでしょうか。

選択肢をキュレーションし、「選ぶ重圧」から解放する
情報過多な現代において、消費者は「選ぶこと」に疲弊しています。
選択を間違えたくないという不安に対し、マーケティングは顧客の志向を診断し、類型化することで、選択肢を狭めてあげる必要が出てきます。
これは単に選択肢に制限をかけるという意味ではなく、「あなたは〇〇なタイプだから、○○がベストです」とお墨付きを与えることが、意思決定の負担を減らすアプローチになります。

消費者のキャラクターを代弁する「ブランドストーリー」の構築
現代の消費は機能の購入から「アイデンティティの表明」へとシフトしています。
例えば、パタゴニアの製品を身につける消費者は、単に防寒具を買っているのではなく、「環境意識が高く、自然を愛する自分」というラベルを、ブランドを借りて代弁しているのです。
ブランドは、顧客が「私はこういう人間だ」と自己定義するためのピースとして、その役割をより強めていくことになるでしょう。

同じニーズタイプでコミュニティを形成する
自分の定義がわかると、「似た人とつながりたい」という承認欲求がわきあがります。MBTIのコミュニティがSNSで活発なのはその典型です。
ブランドが「このタイプを選ぶ人はこういう人たち」というグループを可視化し、同じ自己定義を持つ人同士のコミュニティをブランドが媒介することで、帰属意識と継続的なロイヤリティを生む可能性が出てきます。

おわりに:みんな「自分というキャラクターのラベル」を求めている

現代という時代は、初期設定がない広大なオープンワールドです。
自由という恩恵を受けつつも、それはさながら、自分自身で自分を定義していかねばならないロールプレイングゲームそのものです。

占い、MBTIなどを通じて「自分というキャラクターは何か」「どんな強みと弱みを持っているのか」「この社会の中でどんな役割を果たすべきなのか」ということを、私たちは皆、必死に探しはじめているのではないでしょうか。